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MAMA'S BOYS / Plug It In / 1982

MAMA'S BOYSはアイルランドのマクマナス3兄弟のバンドである。数多い彼らの作品の中で日本盤がリリースされたのは5作品。久々に蔵出して聞いてみてもその輝きは失せていないのが嬉しい。自国アイルランドでリリースしたデビュー作"Official Bootleg"アルバムに収録された名曲"Bellfast City Blues"を再録した本作は彼らの2ndアルバム。本作は翌年には日本デビュー盤としてリリースされた。このときの邦題が「若き電撃三銃士」で、バンド名とも相まってかなりなズッコケ路線だったのがいまだに印象的だ。「若き」は確かに彼らが若かったからそう名づけたのだろう。末っ子のTommy McManusは16歳だったのだ(驚)。しか〜し、収録された曲の数々の放つ光と影のコントラスト、ストレートなハードロックに潜む憂いの存在感の素晴らしいこと。

クサレポイント

本作随一の名曲はなんといっても"Runaway Dreams"。普段はフライングVを弾くPat "Professor" McManusが中間部で奏でるフィドル(ヴァイオリンの別称)の「タラリラリラ タラリラリラ・・・」で始まる調べは万人の涙腺を刺激する。そんな名曲も「夢見る逃亡者」の邦題をつけられてしまっては魅力も半減だ。



MAMA'S BOYS / S.T. / 1984

上述の"Plug It In"の翌年、3rdアルバムに当たる"Turn It Up"アルバムをリリースするが残念ながら日本盤はリリースを見送られた。1984年になってアメリカのレーベルと契約しレコーディング、完成したのが本作だ。ということで4thアルバムになるのだが、実はアメリカデビューのために2ndと3rdから選曲しリ・レコーディングしたものにカバー曲と新曲1曲を加えたアルバムなのだ。プロデュースは名人Chris Tsangarides。音質も格段に向上していて日本盤でもめでたくリリースされた。THIN LIZZYに通ずるアイリッシュなメロディはメタル界の財産であるとつくづく感じさせられる一枚。カバー曲はSLADEの"Mama We're All Crazee Now"で、リリース時点であのQUIET RIOTと競作となってしまった。競作なんて演歌の世界だけじゃないのかねぇと当時思ったもんだが、別に本人たちはそんなこと意識もしてなかったんだろうなぁ^^;

クサレポイント

「戦慄の王子」という、QUEENみたいな邦題をつけられたアルバムだが日本でも大ヒットした作品だ。涙の名曲"Runaway Dreams"もしっかりリメイク。こちらの邦題は「ランナウェイ・ドリームス」と、まともになった(笑)。音も聞きやすくすっきりしたのは良いが、ウェット感ではやはりオリジナルのテイクの方が勝っている。新曲はインスト曲でタイトルは"The Profesor"、Pat McManusのフィドルとフライングVのための曲だ。



MAMA'S BOYS / Power And Passion / 1985

前作は過去作品の焼き直しだが、新作である本作はアメリカでウケる音をレコーディングしている。これが彼らの持つメロディアスな部分を希薄にさせてしまって、いかにもアメリカのラジオ局でかかりそうな軽めのハードロックばかりになった。プロデュースは前作同様にChris Tsangaridesだが、なにしろ曲が印象に残らず弱いのが辛い。ただしアメリカではそこそこの売り上げを記録したようで、アメリカンツアーも行ったようだ。

クサレポイント

アルバムリリース後にスーパーロック'85に参加のため来日公演を行った。翌年のRATTとのアメリカンツアー途中でTommy McManusが9歳のときに患った白血病が再発し治療に専念。しばらくのブランクの後、Tommyの回復を機会に英国屈指のボーカリストKeith Murrellが加入し新作をリリースするなど活動を続けていたが、Tommyはまたもや病に倒れ、1994年についに帰らぬ人になった。R.I.P...。バンドは現在CELTUSの名で、ハードロックではない分野で活動中だ。



TRANCE / Break Out / 1982

Page111で紹介したTRANCEの、ドイツの痛快マイナーレーベルRockport Recordsからリリースしたデビュー作。彼らのクサすぎるメロディとボーカルの絶妙なオンチ具合はドイツの至宝である。初期SCORPIONSをヌカ漬にしたかのような、70年代のジャーマンロックと80年代のハードロックとの境にある楽曲の中心にあるギターソロのメロディは琴線をくすぐるどころの騒ぎではなく、これはもう誰にも教えたくない自分だけのおいしいラーメン屋を見つけたときの喜びに似ている。"Confession"でそれを思い切り堪能して欲しい。

クサレポイント

デビュー時点で このオヤジ度は凄すぎる^^; 右の人、ぼっちゃん刈りにしたフレディ・マーキュリーのようだ。



TRANCE / Victory / 1985

"Power Infusion"に続く3rdアルバム。私が初めて彼らを聞いたアルバムでもあるが、なんといってもクサクサなメロディは全て一度聞くだけで鼻歌になるだけのパワーを持っている。耳の中に無理やり焼付けていかんとするLothar Antoniのボーカルがそんなメロディに乗っかっているわけだから、これはもう印象的とかそんな生やさしいものではなく、「えらいもの聞いてしまった」と感じさせる作品だ。

クサレポイント

この後バンド名をTRANCE MISSIONに改めたりまた元に戻したりと節操のない状況を続けながら、音楽性も少しメロディックになったりヘヴィになったりしているが、クサいメロディとクサいボーカルが完全にメロディアスになるはずはなく、少し聞いただけで彼らと分かる音は健在のまま現在も活動中だ。