Page 175


WAYSTED / Save Your Prayers / 1986

元UFOのPete WayとPaul Chapmanが中心となって結成されたWAYSTEDの、3rdアルバムにしていったんはラストとなる作品。ジャケットに一人写るPete Wayは「これはオレのバンドだ!」といわんばかりでいけ好かないヤツになってしまっているが、一方のPaul Chapmanは玄人ウケするプレイも持つ、実にスタンダードなギタリストだった。失踪を繰り返しUFOから脱退と加入を繰り返すMichael Schenkerの裏返しとなりバンドに呼ばれては去っていく悲劇の人、というのもそのとおりだけど、LONE STARというバンドで聞かせる英国人の気質をそのまんま音にしたプレイこそ彼の「色」であったと思う。
前置きが長くなったけど、本作ではボーカリストがアメリカ人のDanny Vaughnにチェンジ。Page125で紹介したデビュー作で滲ませた毒気は驚くほど失せて、別名でリリースしてもいいぐらいにひたすらコマーシャルでメロディックな路線に変化した。普通はこちらがデビュー作ではないだろうかという出来栄え(笑)なのだ。で、Paulのギタープレイは、英国の湿り気もほどよく感じさせつつ、実に伸びやかで素晴らしい。渋く重い"Out Of Control"がカッコよい。

クサレポイント

ボーカルのDanny Vaughnはその声の伸びやかな部分はSteve Perryを想起させる。90年代になってTYKETTOを結成するが1994年に脱退。そのあとの2代目ボーカリストのSteve Augeriは現在奇しくもJOURNEYのボーカルとして活躍中だ。



MEKONG DELTA / S.T. / 1987

プログレの手法でスラッシュとクラッシックを融合させた、他に例えようのないサウンドで、ジャーマンメタルのカテゴリーに入れられることさえためらいを覚えるバンドであり作品である。リズム隊とメロディとが変拍子の中でめまぐるしく絡み合うかと思えば突然に全速力で疾走するスラッシュへと変わる、といった展開であっけにとられたまんま、B面ラストを迎える。当時は「テクノ・スラッシュ」などというヘンテコリンな形容をされて「難解」というイメージが付きまとったけど、驚きこそすれ頭の痛い音楽ではない。

クサレポイント

ムソルグスキーの世界をメタルに仕上げた曲もあればワルツをメタルにしたようなものもあるし、BLACK SABBATHの曲名をつなげた曲もある。 それらが一つのコンセプトで繋がりアルバムを形成しているのだ。



MEKONG DELTA / The Music Of Erich Zann / 1988

バイオリニストのZannが悪魔と闘うためにバイオリンを弾き続ける、という物語がコンセプトになったアルバム。相変わらずの「やりたい放題」で、実に痛快なプログレスラッシュ。リズムも重くなり、疾走度もパワーアップしている。なによりRalf Hubertのペースの音数が多いのとJorgのバスドラが前立腺にまで響く音量なのが凄い。これをライヴで再現できるのかと思ってしまう複雑な曲展開にあって、しっかりとメタル魂をソリッドなまま保っているのが、久々に聞いても新鮮に感じられる。アイデア、演奏力ともにこの時代の他のバンドに比べて個性が際立っている。

クサレポイント

リーダーのRalf Hubertはプロデューサー、エンジニアとして泣くドイツの子もだまるジャーマンメタルの重鎮的存在だ。メンバーは1stでは別名でエントリーしているが、Jorg Michael、Frank Fricke、Reiner Kelchといったジャーマンメタルの雄たちだ。



SARCOFAGUS / Cycle Of Life / 1979

70年代のサイケなハードロックの影をひきずったメロディが独特の世界を聞かせてくれる。バイカーズでありサタニズムな雰囲気も持つ、リーダーでありギタリストのKimmo Kuusniemiが醸し出すダークでサイケな雰囲気が実に怪しげなのだが、曲そのものはDAWNWATCHERやANGELWITCHといったNWOBHMのバンドが持つニオイと同じものを感じさせているから案外と聞きやすくもある。ギターに負けじとリズム隊も走る"Eternal Silence"が聞きもの。泣きのフルートとメロウなギターが美しい"Hermit"も胸に染み入る。英国のものでもない、ドイツのものでもない、けれど日本人の琴線にもしっかりと響く不思議なメロディが満載だ。

クサレポイント

これが当時日本でもリリースされていたから驚きだ。いったい何枚売れたことだろう。



SARCOFAGUS / Envoy Of Death / 1980

もちろん前作と同じ路線でこのバンドはKimmo Kuusniemiのアイデアで成り立っていると感じさせるものだ。NWOBHMなニオイはそのままだが、ストレートな部分がやや影をひそめてダークで怪しい雰囲気が増している。そのへんはフィンランドのプログレッシヴロック、WIGWAM のドラマーRonnie Osterbergがゲスト参加してレコーディングされた"Black Contact"が圧巻なのだが、効果音を使ったり、プログレ志向の大仰な展開が随所に見られると同時に、サタニックに深層心理に迫り来るサウンドがなんとも恐いのだ。ライヴでは顔を銀色にペイントしたり、スモークをガンガン焚いたりしてシアトリカルだったようだ。

クサレポイント

バンドは本作で解散するが、Page2で紹介したようにKimmo Kuusniemiはソロ名義でアルバムをリリース。ボーカリストはこの後ベーシストとしてOZに参加している。Kimmo Kuusniemiは今もSARCOFAGUSのギタリスト(兼ドラムス!)として炎を放ちながら活動中