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HELSTAR / A Distant Thunder / 1988

80年代のアメリカンメタルの中でも真にメタリックな音を出していたバンドの3rdアルバム。ブルちゃん唱法のJames RiveraのノドやSteve Harrisばりにブリブリと鳴るベースなどはIRON MAIDENの影響下にあるものの、楽曲の凝りようはLIEGE LORDやSAVAGE GRACEといったバンドと並び称せられる。時代に迎合せず頑ななまでの自己主義な音であり、これがアメリカのメタルなのだと胸を張るかのような作品だ。凝りながらもパワーは上昇するばかりのメロディラインは最後までテンションを落とさない。捨て曲なしの本作は彼らの作品の中でも一番の名作だ。

クサレポイント

SCORPIONSの"He's A Woman She's A Man"のカバーは、James独特の歌いまわしが悶絶するぐらいにユニーク。中間部でリズムが変わるところがたまらなくカッコよい。



HELSTAR / Nosferatu / 1989

HELSTARの魅力はパワーメタルでありながら、どこかしら冷酷でダークな雰囲気を曲のあちこちに感じられることだ。これはオリジナルメンバーであるJameが表現したかった世界なんだろうか、と思いつつ耳を彼らの音に浸してみると、このバンドがよりいっそう気になることだろう。聞きやすさでは前作に勝らないが、プログレ志向が強いパワーメタルに昇華している。単にプログレメタルという安っぽい呼び方では本作は語れないくらい、タイトルからイメージするようなダークなパワーを感じるのだ。

クサレポイント

インストながらクラシカルでありパワーでありメロディックでありプログレッシヴな"Perseverance and Desperation"は一度は聞いておきたい名曲なのだ。




HELSTAR / Multiples Of Black / 1995

"Nosferatu"から6年のブランクの後に発表された5thアルバム。妙にスカスカなドラムスに驚き、テンションの低さにも少々ガッカリさせられる作品だ。バンドが醸し出すダークな空気こそ感じられるが、カミソリの刃を研ぎ忘れたかのようなサウンドがあちこちに響いているのは聞いていて辛い。JUDAS PRIESTの"Beyond The Realms Of Death"のカバーは本家が知らしめた世界観を損ねることなく自分たちのモノにしているあたりはさすがな出来栄えだ。それだけにオリジナル曲との差がくっきりとしてしまった。

クサレポイント

本作でバンドは空中分解し、James RiveraはDESTNY'S ENDやSEVEN WITCHESといったバンドを渡り、最近はBrad GillsとともにVICIOUS RUMORSで活動中。と思いきや2006年になってHELSTARを再興させたりと、忙しい日々を送っているようだ。