○興奮期○

 その後、私はAsgeir氏協力により、私にとって幻であったブラオーがすこしずつ近づいているような実感にひたる日を過ごしていた。

 んが、なんとホントにブラオーはまともに私に近づいてきた! 

  2月1日、またまた見慣れぬメールが私の元に届いた。「Torbjorn Dybsand」氏が差出人となっていたそのメールは、一部の文字が「・」に文字化けしている。実際、名前の「j」のあとの「o」の部分などが点になっていた。どうやら北欧の人で、「φ」を表記したかったようだが、PCの規格上カバーできなかったようだ。
 さっそく読んでみると、どうやら私があちこちのWeb Boardに書き込んだ「たずね人ブラオー」の記事を読んだのを契機にメールを出してくれたらしい。なになに・・・

「やあ、はじめまして。私はブラオーをよく知っているよ!」

 おお、彼らのことがより詳しくわかりそうだ、こりゃ! それで・・・

「実は私はブラオーのドラムス、キーボード、ソングライティングを担当していたんだ! ブラオーは私のバンドだったんだよ」


 (@_@)!!!!



 「腰を抜かす」のは32年の人生の中で初めての体験であった。大慌てで例の「British Rock Festival」のCDのインナーを見てみた。


 お、おお、おおおおおおおおっ!
 たしかにドラムスの名は「Torbjorn Dybsand」と書かれていた。あんぐりと開けた口は、げんこつでも楽々入ってしまうほど大きいものだったに違いない。 そう、とうとうメンバーからメールが届いた!!あまりの驚きでボーリングポーズも出せない。

 しかし気になる・・・。そう、「バンドだった」と、過去形の表現は・・・。口だけでなく目も大きくしてメールを読んだ。

「君が耳にした曲は、1989年に私たちがデモテープ用に作った曲なんだ。私たちはこの曲がはいったデモテープアルバム「Blind Leading The Blind」を持って、ディール獲得のためにヨーロッパ中のレコード会社を回ったけど、いい返事がもらえなかった。そしてBlind Orphansは失意のうちに1990年になって解散してしまったんだ・・・。」

  いきなり明かされる驚愕の事実! 唸りながら読んだメールの続きを要約すると、以下のようなことである。

「・・・このデモテープは全7曲、私たちの知る限り、CDやレコードでリリースされたことはないはずだ。だから、遠く離れた日本に住む君が私たちの曲を知っているのはとても大きな驚きだ。少なくとも君は私たちにコンタクトをとった最初の日本人だからね。

 私たちは解散後もノルウェーの音楽業界にとどまり、いろいろなバンドで活動を続けてきた。そして現在では、ギタリストはJack In The Boxを経て、Autopluverというバンドに加入し、今はちょうどオランダをツアー中だ。一方で私とベーシストは共にGlowという名のバンドを結成して活動中だ。AutopluverはCDを1枚リリースしているけれど、私たちのバンド、Glowは、デモ音源を録ったばかりで、これからディールを探すところなんだ。

 それにしても私たちの過去に興味を持っている人がいると知って、私たちは大喜びだよ。もしよければ君に、デモテープを1本譲りたいんだが、いかがなものかな?」

 なんと実物のデモテープを送ってくれるようだ!!先述のAsgeir氏に頼んであるものの、やっぱり実物も魅力的だ。
 その日のうちに、いかに私がブラオーを探していたかをしたため、デモテープについても送って下さるよう、彼に返信した

 ・・・こうして彼とのメールのやりとりが始まった。彼に訊ねたいことはヤマほどあった。
 いまさらながら英語が不勉強であったことを後悔しながらも一生懸命にまとめた、こまかい私の質問にも、丁寧に彼は答えてくれて、10回以上のやりとりを続け、私が探し続けていたブラオーは、本当にその全貌を明らかにすることが出来たのであった。

  また、Asgeir氏からも、約束通りにデモテープをダビングしたテープと、わざわざシートをカラーコピーしてくださったものが届いた。

 初めて触れる、ブラオーの他の曲・・・。震える指でデッキのスタートボタンを押し、スピーカーから流れ出る、まさに想像した以上の北欧様式美あふれる、一大絵巻のような旋律に、えもいわれぬエクスタシーを感じるのであった・・・。

 そして、その1週間あとには、Torbjornからもデモテープの実物と、なんとGlowの音源をCD-Rで焼き付けた手作りのCD("Special Custamized For Koichi Matsunaga" と名付けられている!!!) が届いた。
 わたしはこの時点で、世界にひとつしかない、ブラオーのバイオグラフィをまとめたサイトを立ち上げようと決心したのであった・・・。


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