○達成期○

ブラオーを探しつづけた長い長い旅は終わった。バンドのメンバーと知り合いになれるという最高の形で私が追い求めていた音は私の手の中に残った。 これ以上何の喜びがあるだろうかと、経験したことのない幸福感に包まれるのと同時に、目標を達成したという虚脱感からしばらくは猟盤もパワーダウンしていた。

が、実は最後にもうひとつの答えが残っていたのだ。


2001年、メールでハードロックのことなどいろいろと情報交換していた人にTさんという方がいた。この方もまたハードロック〜メタルを心から愛するネットメタラーであり、海外の通販などもよく利用される方であった。とある日の彼からのメールで、私は全身が汗びっしょりとなる。

「海外のショップにオーダーして確認済みなんですが、ブラオーのCDが見つかりましたよ。」

!!! ぬぁに!!!


カセットテープではなくて「CD」である。当初私があれだけ熱い思いで探し求め、結局はTorbjornから「ブラオーのアルバムはいかなるフォーマットでもリリースはしなかった。」の答えを引き出してしまったはずのCDである。この時点では半信半疑ながら、久々の情報に電撃ショックをくらったのだ。

しばらくの後、そのCDはホントにショップから彼のもとへ届いたとの知らせを受けた!

彼の話では、ブラオーを含め、そのショップのリストからたくさんのオーダーをかけたところ一枚を除いてすべて売り切れ。残った一枚がブラオーだった、ということだった。彼は私がどれほどブラオーを探していたかを知っていて、親切にもそのCDを譲りたいと言って下さった。そして私のショボいストックから選んだCDとトレードする、ということにしてくださったのだ。
私はここにいたるまで自分が実に幸せ者で恵まれていて、ということを何度か痛感した。最後のこの驚きと幸福もまた、彼のような親切な方にもたらされたことを心から感謝せずにはおれなかった。これこそまさに自分一人ではたどり着けない道であった。

とある日に、神戸三宮で彼と待ち合わせ、とうとうCDを手にした。考えればこの三宮という場所は、私が初めてブラオーの音にふれるきっかけとなったオムニバスCDを購入したところでもあった。猛烈ダッシュで自宅に帰り、CDを聞き、ジャケットをすみずみまで見た。もう聞きなれて歌も歌えるようになっていた作品だったが、その新鮮味が枯れることはない。



ディスクはプレスされたCDであり、レーベルは予想通りDRIVEレーベルだった。収録曲は先のデモテープと同じ7曲。ただしブックレットには8曲目として"Blind Leading The Blind"のの曲名クレジットがあったが、これは収録されていない。おそらくは表記ミスだろうか。

ここまでの話から判断すると、ブラオーのメンバーはこのCDの存在を知らないはずである。

その晩私はTorbjornにこのニュースをメールした。「つ、ついにブラオーのCDをゲットした! 今、現にこの手にあるよ!」
彼の反応は・・・これは実に気持ちがよくわかるのだが、自分たちの知らないところでリリースされてしまったこのCDについて、また、このレーベルに対して「怒りを覚える」ということだった。

もしTorbjornと知り合う前にこのCDを手にしていたら、だだ嬉しいだけだったろうけど、今はTorbjornの気持ちがよくわかるだけに私も複雑な心境になった。しかし彼はちゃっかり「そのCDを記念にちょうだい!」と言ってきた。過去の音源を勝手に使われた怒りはもっともだが、気持ちを切り替えておどけてくるところが彼らしい。
私の答えは「申し訳ないが、これは私が持っておきたい」。彼は「君がそう思うのももちろんだ。そいつは君が持っておいてくれ。」。私は彼にこのCDのフルカラーコピーとCD-Rとを送った。

結局のところ、このCDについてはリリースに至った経過や詳細はわからない。レーベル自体存在していないようだし、リリースされたものの果たして何枚出回ったのか(おそらくはかなり少ないものと思われるけど)見当もつかない。ただ、メンバーの承諾は明らかに得られていないままにリリースされていたことだけははっきりとしていた。その点が残念である。
TorbjornとSven Kaareは、その後も働きながらノルウェー国内で音楽活動を続けている。彼らの今のバンド、GLOWについてもマイペースながらライヴ活動をこなし、2003年、彼らの長年の夢でもあった「自らの手で自分たちの作品をリリースする」ことを実現させた。GLOWの記念すべきデビュー作は自主制作され、フランスのMuseaレーベルのハードロック部門のレーベルであるBrennus Musicからリリースされることになったのだった。

こうして長い長い長い長い長い旅はひと段落。自分自身、よく彼らの音を探し続けられたなぁという思い、充実感でいっぱいだ。それは、たくさんの人たちの暖かい心遣いに恵まれたことを抜きにしては味わえなかったことだし、なにより今でも私の中で輝き続けるかれらの音楽があったからこそなのである。音楽は本当に素晴らしい。たくさんの宝物を私に与えてくれるのだから。

・・・この旅も、足掛け10年を超え、本当に終点を見た思いがした。んが、実は夢の続きは実在した!
2009年、それは時空をも飛び越える夢の続きだったのであ〜る!

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